昼までは・・・まだ太陽が顔を出していた
でも、秋の空は・・・その移り変わりが早いらしく
ダークグレーの雲が・・・俺の上を厚く覆っていた


「だから、どうしても話を聞いてほしかったんです」


このまま・・・雨になるんだろうか
夏の間、うっそうと茂っていた木々は
風に吹かれ・・・かさかさと乾いた音をさせていた
もうすぐその葉は色を変えてゆく・・・そんな季節なんだな

絵に描いた様な雨雲が、あてどころもなく流れてゆくのを
俺はただ・・・・ぼんやりと見ていた


「入学する前から、葉月くんの事をずっと好きで
少しでも近づきたいから、高校はこの学校を選んだんです」


今日はバイトもない
午後から俺を支配した眠気に逆らわず
ゆっくり眠っていた俺は・・・
今・・・目の前にいる女に起こされた


そのまま無視してやり過ごすつもりだったのに
相手は昇降口で俺の靴を手に取り・・・離さなかった
・・・仕方なくこうして校舎裏まできている


「入学してから・・・もう一年半です
その間に、誕生日とクリスマス、それからバレンタイン
毎回・・・葉月くんにプレゼントを用意して・・・
でも受け取ってもらえなくて・・そのたびに泣きました」


そう言うと・・・下を向いて黙りこくる
足元に、雨粒ではない・・水滴が落ちた


「どうしても・・・好きなんです!
葉月くん以外に考えられない
お願い・・・私の気持ち受け取ってください・・・」


まばらに置かれた自転車が
まるで面倒な俺の気持ちを表しているようだ
出来ることならば・・・・


「もう・・気が済んだだろ
俺・・・帰るから」

「待って!」

彼女は立ち去ろうとした俺の腕を取る


「悪いけど・・・付き合うとか出来ないから」

「理由・・・、だめならだめで理由を教えて」

「言う必要・・・ないだろ」

「そんなの・・・そんなの・・・
こんなにあなたの事好きなのに!」

俺は天を仰ぎ・・・またこの言葉を口にしなければいけない




「どんなに俺を好きだろうと
俺は・・・好きじゃない
これから先も、好きになることは・・・決してない」

「・・・」

俺の腕を取っていた彼女の手が力なく外れた


「理由・・・言っただろ
もうこれから先は、俺にかまうな」


彼女が踵を返し踏みしめた足元の砂が、ザッと音をたてて
俺はようやく開放されたことを知り安堵した




でも・・・たった2秒後

ガチャン

と、金属のぶつかり合う音と
小さな悲鳴が「二つ」聞こえ
俺は自分の目を疑った


俺の視界の中に
走り去る一つの影

乱雑に置かれた自転車
そして立ち尽くし、俺を見ている・・・がいた















・・・・」

いつからそこに・・・

そう聞く間もなく
は、まっすぐ俺に向かってきて
目の前に立ち、まるで非難するように俺を一瞥すると


「どうしてあの子の気持ちを受け取ってあげないの?!
1年半以上、ううん、きっともっとずっと前から
葉月くんの事好きだったって言ってたじゃん!」

「・・・」

「ひどいよ!
女の子泣かせるなんて、最低!」

・・・そう言い放った

最低、最低

俺の頭の中で・・・その言葉が二度繰り返される
その言葉は・・・俺の理性の鍵を外してしまうに充分な響きを持っていた





「ああ・・・そう思えばいい
俺が、最低だってことは・・・俺自身が一番わかってる

だけど
おまえはどうなんだ・・・
人の話を立ち聞きした、おまえはどうなんだよ」

自らの言葉に挑発されるように・・・俺はを責める言葉を口にしていた
きっと見開いたまま俺を見ていたの瞳が、瞬きを二度繰り返す



「た、立ち聞きしたのは謝るけど
でも、でも、あの子の気持ち考えたら
一度付き合ってみたっていいでしょ!
一緒にいるうちに、好きになるかもしれないのに
あんなふうに、冷たい事言うなんて」

「一緒にいるうちに・・・好きになる?」

「そうだよ、これから先好きになるかどうか
そんなの付き合ってみないうちにわかる訳ないじゃん!」

「じゃ、おまえは・・・」


告白されれば、誰でも付き合うんだな?


俺は心の中で、そう問いかけた
声にはならない、その言葉が
俺を支配し・・・そして俺は・・・


、おまえは・・」

「え?」

「誰だっていいんだな
好きじゃなくても」

「それは・・・」

「告白されて付き合ったら、好きになるんだろ?」

言いながら、どんどんへ詰め寄ってゆく
後ずさるが・・・校舎の壁を背にした


「おまえは・・・一度付き合ってみればいい
そう言ったな?」

突き進む俺は、の身体が逃げられないように立ちはだかり


「は、葉月くん・・・ちょっと」

右手を突き出し・・・
の肩口の上で壁にぶち当てた


「俺は、  おまえが好きだ
いいな、俺はおまえに告白した
だから、俺たちは今から付き合うことになった」

俺はその勢いのまま、左手での顎を引き寄せ
そして、唇を奪おうとした

その時

たった今まで俺を見つめていた目が閉じられ
まぶたの端から・・・涙がこぼれた


「泣くほど、いやなのか・・・」

「ちっ、違うの・・・」

はまぶたを開き・・・俺を見上げた
その肩が小刻みに震えていた

の顎を持っていた俺の手は
その所在を失ってゆく・・・




「・・・悪かった」

「違うっ・・・葉月くんは、悪くない」

そういって首を横に振ったの頬に
あとから・・・あとから涙が伝う
俺はから一歩はなれ
握った拳を校舎にぶつけた


「俺は、おまえを泣かせている
結局・・・最低だ・・・」

「違うの・・・ちがうっ・・・」

「何が違うんだよ、最低だって言えばいいだろっ」

は校舎に叩きつけた俺の拳を両手で握りその頬へ寄せた
溢れる涙が・・・俺の拳を濡らした


「誰でもよくない、本当に好きな人じゃなくちゃ、だめだよ」

「・・・」

「わかったの・・・いま、わかったの
葉月くんの瞳を・・見ていたら・・・・私

誰でもいいから付き合ってほしいなんて思ってない
本当は・・・そんなこと思ってなかった
だから、無理して私と付き合うとかそんな事言わないで・・・」

は握り締めた俺の手を離す


「・・・無理して言ったんじゃない」

「無理してるよ・・・
わかってるの、私が怒らせたから」

そしては・・・顔を上げ、まっすぐに俺を見た


「葉月くんが・・・さっき
これから先も好きにならないってあの子に言って・・・
そうしたら・・・自分が振られたみたいで

ごめんなさい、私
なに、言ってるんだろ・・・
ごめんなさい・・・ごめっ・・・」

息が続かなくなって・・・は、ただ涙した

溢れ出る・・・の涙の意味
それが何なのか・・・愚かな俺にはわからない

けれど・・・もう、俺は我慢することを望んでいない
いや、もう我慢なんて・・・出来なくなっていた



「おまえが・・・どう思おうと
俺がさっき・・好きだといった言葉は嘘じゃない

俺は・・・本当に、好きな女としか付き合おうと思わない
自分が、本当に想っている女にしか
好きだ・・・なんて言えない
これは・・・一生変わらない」

その言葉を口にした俺は、もう・・・堪えることなど出来なくて
手を伸ばし・・・の身体を抱きしめていた


「葉月・・くん」

右腕の中の・・・髪の香り
背に回した左腕に感じる身体

突然やってきた・・・この瞬間
俺は、どうすることも出来ず・・・自分の気持ちをぶちまけた


「ずっと、もう何年も
おまえのことだけ・・・好きだ
おまえしか・・・・考えられないんだ、俺は」

俺は・・・自分からの身体を引き離し
肩を持ったまま・・・じっと見つめた


「こんなこと・・・言うはずじゃなかった
だけど・・・俺は・・・」

は・・・俺を見上げ
そして、目を閉じた


俺は・・・の顎を引き
唇を・・・重ねた

触れ合った唇・・・・
伝わる・・・柔らかさ

俺は、何年も心の奥にしまいこんでいた気持ちを
この唇で・・・いま、に伝えてしまった

愛しさが・・・溢れ出す
こんなにも俺は・・・こいつを愛している


「ありがとう・・・」

そういって身体を預けてくれた・・・
俺は・・もう何も言わず
もう一度・・・深く深く、口付けた

腕の中のが・・・
幻にならないように

大切な人が
俺の腕から・・・逃げないように抱きしめる
強く強く、永遠に・・・





END

素材提供:王子の憂鬱・桃田様



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